Knightly Nightmare

SLEEPY HOLLOW
スリーピー・ホロウ


1999 アメリカ ヘラルド映画

監督=ティム・バートン
脚本・原案=アンドリュー・ケヴィン・ウォーカー
原案・共同製作=ケヴィン・イエーガー
原作=『スケッチ・ブック』「スリーピー・ホロウの伝説」
   ワシントン・アーヴィング
薩英監督=エマニュエル・ルベツキー
プロダクション・デザイナー=リック・ヘインリックス
衣裳デザイナー=コリーン・アトウッド
音楽=ダニ−・エルフマン

イカボッド・クレーン=ジョニ−・デップ
カトリーナ・ヴァン・タッセル=クリスティーナ・リッチ
ヴァン・タッセル夫人=ミランダ・リチャードソン
バルタス・ヴァン・タッセル=マイケル・ガンボン
ブロム・ヴァン・プラント=キャスパー・ヴァン・ディーン
トーマス・ランカスター医師=イアン・マクダーミット
ジェームズ・ハーデンブルック公証人=マイケル・ガフ
ニューヨーク市長=クリストファー・リー
スティーンウィック牧師=ジェフリー・ジョーンズ
ヤング・マスバス=マーク・ピッカリング
レディ・クレーン=リサ・マリー
(デュラハーン=クリストファー・ウォーケン)



ライン



 「鵺(ぬえ)の鳴く夜は恐ろしい――」は、横溝正史原作の映画『悪霊島』のキャッチフレーズ。
これ、『スルーピー・ホロウ』にも使えるなぁと思うわけです。「鵺の鳴く」を「蹄(ひづめ)轟(とどろ)く」に変えれば、もう完璧!
そう、あの横溝正史ミステリーを、某ネズミーランドの、私感では“完璧なエンタテインメント芸術”であるところのホーンテッド・マンションの世界で再現したら…それはきっとこの映画。
私のツボ直撃の娯楽作品なのであります。


 白霧に包まれ、まどろむような風情をもつ“眠れる谷”スリーピーホロウと呼ばれる村。ここはオランダ移民の集落だった。
 霧が立ちこめる夜。畑を縫う道を1台の馬車が走っていた。圧する夜の気配に追われるように、馬車の速度はいつもより速かったかもしれない。
 車中の人物がふと、背後に音を感じる。ドガガッ、ドガガッ。みるみる迫ってくるのはどうやら馬の蹄の音。並んだ、と思った瞬間、金属の鋭い鞘走りの音がする。シャキーン。
 何ごともなかったかのようにガラガラと走る馬車。しかし一連の物音を訝しく思い、窓から顔を出せば、御者台には手綱を握る息子の姿。声をかけようと息子の顔を仰げば…そこには頭がなかった!
 馬車の扉を開け、地面にころがり出る。霧と闇に支配された視界に、寄せる恐怖は重さをもつ影。迫る、しかしどこから…。鞘走りの音がする。
 やがて無音の闇にころがる、首。

 1799年、連続殺人がアメリカ東部の村スリーピーホロウで起きた。被害者は3人共、首を高温の刃で切断され持ち去られていた。
 その頃ニューヨークでは、状況見聞や拷問で罪が決る旧態の犯罪捜査に、クレーン捜査官(でもconstableだから副保安官と訳した方が時代的?)が科学的捜査の導入を主張していた。
 しかし、当時の警察上層部に理解されるはずもない。反抗罪で独房に入るか、連続殺人を科学的捜査で解決するか、迫られたクレーンは唯一人スリーピーホロウに向かった。
 村長、その息子、村の未亡人、村長の使用人…彼等を殺した犯人は誰なのか? なぜ首を持ち去るのか? そして、クレーンの不思議な夢の結末は?

かぼちゃ


 19世紀、印刷業の発展に伴い、アメリカの出版業界ではアメリカ人のためのアメリカ人による国民的文学を作ろうとする運動が興りました。しかし1776年に独立を宣言し、1783年のパリ条約で誕生した、まだ若いアメリカ合衆国は、「自分たちの物語」を創りだすだけのモチーフを欠いていました。
 そこで書かれたのが、“母なる”旧大陸(ヨーロッパ)の文学を手本に、中世の不気味な闇や、超自然現象を描くという、懐かしくてセンセーショナルな作品でした。
エドガー・アラン・ポー(1809〜49)の作品に代表されるアメリカン・ゴシック・ロマンの誕生です。
ワシントン・アーヴィング(1783〜1859)もまたゴシック・ロマンの担い手でした。彼がイギリス滞在中に書いた短編の1作が、映画の原作となった「スリーピー・ホロウの伝説」。今ではアメリカの“怪談”としてすっかりポピュラーなのだとか。

かぼちゃ


 映画『スリーピー・ホロウ』に登場する“首無し騎士(デュラハーン)”は、1775年に起こったアメリカ独立戦争に送り込まれ、殺戮のかぎりを尽し、1779年に斬首されたドイツ人傭兵。
 その彼がなぜ死後20年もたった今、登場したのか。
 その謎に、閉鎖的な村、明かされる血縁関係、遺産相続にまつわる陰謀、魔女と魔法、解剖や血液反応を調べる(怪し気な)捜査科学が複雑に絡んで、怪しさ倍増。何より怪しい、クレーンの過去!

 圧巻は、首無し騎士(映画では「ホースマン」と呼ばれてます)が出現するシーン。
松明の火が消え霧が立ち渦を巻き、雷鳴が走り、蹄の音を轟かせて現れる黒衣黒馬の騎士。
鞘鳴りを響かせ剣をくるり一回転、来る来る迫る迫る…首がぽーん!…あぁ、かっこいい!!(笑)
軽々と剣を振りまわす膂力(りょりょく)に騎士の強さが集約されて、「悪魔のような」という表現も納得させられてしまいます。この首なし騎士のアクション・スタントはレイ・パーク。『スター・ウォーズ/エピソード1』でダース・モールを演じた俳優だそうです。
首ありの騎士はクリストファー・ウォーケン。頭もなし、セリフもなし、なので、ウォーケン自身がクレジットの必要はないと言ったそう。
彼が1983年、デビッド・クローネンバーグ監督の『デッドゾーン』に教師役で出演した際、使った教科書が「スリーピーホロウの伝説」だったとか。ウォーケンにとっては因縁の役だったのかもしれません。
 蒼白の肌にサファイヤの青の目、ぎざぎざに尖らせた歯をもつウォーケンのデュラハーンは、登場シーンはほんのわずかですが、非常に印象的です。
騎士にとっては20年を経た運命のロマンスだったのかも?の結末は、ウォーケン初のキスシーンだった! これも驚きのエピソードです。

 馬のチェイスもまたすごい迫力です。首無し騎士が駆る黒馬デアデビルは、狙った獲物を逃しません。相手が馬でも馬車でもひたすら幽鬼の疾走で追いかけます。もちろん追われている方も必死の速度で馬を、馬車を駆ります。
 地を蹴立てる馬の重量感、蹄の轟き、疾走のスピード感をこれほどリアルに表現した映画も少なかろうと思います。

 蒼い闇、黒や灰色の背景に、くすんだ衣裳。落ち葉の茶色、黒ずんだ木々。
ダルトーンに沈んだ世界に、カトリーナの金髪、白磁の肌、白い衣裳、女性のドレスのピンクや鮮やかな青、クレーンの夢の赤い扉、そしてジャック・オ・ランタンのオレンジなどの色彩がいっそう鮮やかに映えます。
 黒よりも黒い、黒馬にまたがる黒騎士の姿は、エンブレム(フェラーリの黒馬みたいな)のような様式美さえ漂わせて、くっきりと記憶に刻まれます。
 計算され尽くした色彩の美しさは、エンディングの雪景色のニューヨークまで魅せてくれます。

 そして音。怪談では音の恐怖は欠かせないものです。その音のもつ力を再確認できるのも、この映画の「怪談」たるところ。あるべきところに、あるべき音…ハズさないサウンド・エフェクトもまた完璧な計算のなせる技でしょう。

かぼちゃ


 と、ここまでシリアスに紹介してきましたが、実は『スリーピー・ホロウ』、私には“オモロイ”映画なんです。コメディではないのですが、ノリが関西系と申しますか。
 とにかく首がぽんぽん飛ぶので、最後には「あはははは…」と笑うしかなくなります。
クレーン(ジョニー・デップ)ったら何回気絶するんだとか、目玉や舌が飛び出す描写でシリアス気分吹っ飛び〜とか。
首なし騎士たら、その顔でその馬鹿っぽさじゃ人間の時から化け物だよとか(いえ、首がある方も、べらぼう強くてかっこいいんですが)。
これでもかこれでもかと、ブラックな遊び心たっぷりのシーンが現れるのです。
お伽話の絵本を見ているようなウソっぽさが、この作品のイイところなんだと思います。

 スリーピーホロウ村の情景や「死者の木」の気色悪さはバートンの趣味炸裂です。
特に前半やたら出てくるジャック・オ・ランタンが、バートンだなぁと笑えます。
このあたり『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』を観ているとウケますね。『ナイトメア』のブラックさに共通するものがあります。

 クレーンをスリーピーホロウに送り込むニューヨーク市長は、クリストファー・リーが演じています。50年代、60年代の「ハンマー・ホラー」の名優、ドラキュラ役では右に出る者のいないリーの登用から、バートンが『スリーピー・ホロウ』で目指した方向をうかがうことができます。
それはまだ『サイコ』や『シャイニング』が登場する以前の、ロマンの香りとベルベットの感覚をもつクラシックなホラー映画の再現だったのではないでしょうか。

 ちなみにスリーピーホロウ村のロケ地はイギリスです。ロンドンから北に2時間ほどの、ライム・ツリー・ヴァレーに村のセットが建てられました。


 真面目に観れば深〜いテーマがあるようですが、ふざけて観ても全然オッケーな物語。
 何を怖いとみるかは人によりけりなので「怖くない」とは申せませんが、お薦めできる映画です。


風景ライン

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