タイトル

Fictional Non-Fiction
新人編集日記

…これは試用期間3ヵ月限定の若葉マーク編集者の物語である。
どこかの編集部に似てるな、とか思っても決して口に出してはならない。
「これはフィクションです。実在の個人・企業・団体とは何の関係もございません」だからである。
(この断り書きは便利だ、うん)



某月某日

「お早うございまーす」
出勤時間は10時。でも庶務席に庶務さんがいるだけで、編集席には誰もいません。
この編集部のメンバーは9名。うちフリー5名。フリーは出勤義務はないから、まぁいなくて当然ですが。
あと4名は正社員、嘱託社員、契約社員の差こそあれ、10時出勤が基本(のはず)。
しかし編集部はNobody else…。

新人編集の仕事は、午前中の電話番から始まります。
10時を過ぎれば、ひっきりなしに電話が入ります。まず、自分宛の電話なぞありません。
「はい、××編集部です。……いつもお世話になっております。申し訳ございません、○○は本日取材で立ち寄っておりまして」(単に来てないだけですが、正直に言っちゃダメダメ)
肩で受話器を支えてメモメモ。
「○○さん宛 ○○会社○○様 ○時○分電話 折TEL希望/掛け直し 先方電話番号 メッセージ」
1本の電話に出ている間に、2本目、3本目が鳴ります。
「はい、××編集部です」
「▲▲いるか?」
「(失礼な人だな)…いえ、本日は取材で立ち寄っております」
「取材ってどこ行ってるんだ。連絡あったのか?」
「あの、ええと…(こういうツッコミはどうかわせばいいんだ?)」
「▽▽が用があるから、至急連絡しろと伝えてくれ」
「かしこまりました。…あの、どちらの▽▽様と伝えましたら…」
「専務だ」
「(どひゃー!)あ、失礼しました。申し伝えます」早く来てください、▲▲さ〜ん(泣)。

隣の編集部も誰も出勤していません。
手が空いていれば、「はい、△△編集部です」なんて出ますが、誰が社員で誰がフリーかわからないので対応に四苦八苦。
社員の場合は「取材で立ち寄っております」、フリーの場合は「まだ入っていません。今日はこちらに入るかどうか、わかりません」。使い分けも大変です。

一番電話が多い編集長が一番出勤が遅かったり。そのうえ立ち寄りも多いです。
ということで、彼の席には小さな電話メモが次々継ぎ足され、なが〜い帯が床まで垂れ下がります。
「あ、もしもし○○だけど」
「編集長! お電話たくさん入っております。読み上げますね。○時○分、○○会社○○様からお電話。折テル(折り返し電話)いただきたいとのこと、電話番号は…」
できるだけ単調に読む。ささやかな嫌がらせです(笑)。


12時頃から皆がそろそろ出勤しだします。
そりゃ、ひどい時にはその日の朝5時までとかの作業なので、遅い出勤も仕方がないのですが。

この頃になると、メッセンジャー別名おつかいの仕事が入ってきます。
大抵こういうパターンです。
「○○先生の事務所で原画を受け取って、東○動画でセルコピーをとってもらい、それをアイ○ータツノコ(彩色)に持っていく」
西武池袋線、西武新宿線、JR中央線及びこの線を縦につなぐバス路線は、すでに頭の中にインプット済。

本日のおつかいメニューは「△△さんのところで原画を受け取って、以下同文」。
ピンポーン♪と鳴らすと、インターホンが何やらガチャガチャ言ってます。
「××編集部の者ですが、原画を受け取りに参りました〜」
「ガガガ、ガチャガチャ…ゴンッ」しーん
「?」ピンポーンピンポーン♪
しーん
もちろんドアは施錠されています。
近くの公衆電話(当時は携帯なぞありません)まで行き、電話します。
コール10回…誰も出ません。もう一度…出ません。
仕方がないので編集部に電話します。
「△△さん、家にはいらっしゃるようだったのですが、インターホンにも電話にもお出になりません」
「あれ〜、この時間にはいるって言ってたけどな。俺からも電話入れるわ。20分ほどしてまた行ってくれるか」
20分。私鉄の普通電車しか止まらない駅から、歩いて5分のマンション。近くに時間をつぶせるような店などありません。
諦めて大きなA全原稿用カートーンを抱えたまま、路上にて待ちます。
吹き抜ける秋風には、武蔵野のカラッ風の冷たさが混じっています。

20分ちょうどに、△△さん宅へ。
ピンポーン♪
しーん
インターホンに耳を近づけると、かすかにカサカサフサフサした音はしますが、声は返りません。
もう一度、編集部に電話。「やはりお出になりませんが」
「わかった。帰ってきてくれ。えっ何?(電話の向こうで何やら会話)…その前に▼▼先生のところ寄ってくれ。まんが原稿上がったらしい。受け取ったら、駅から電話くれるか」
「わかりました」と答えたものの、ここが西武池袋線なら、その先生宅は西武新宿線です。
まず池袋に出て、高田馬場から西武新宿線に乗り換えます。
マンションのドアに貼ってあった原稿を引き取って、電話を入れます。
「受け取りましたが」
「あ、さっきの△△さんところに戻って原画受け取って東○行って、アイ○ー頼むわ」
「……先ほどはお留守だったんですか?」
「いや、インターホンには出たらしい。なんかインターホン持ったまま床に倒れ込んで、寝てしまったらしいんだ。いや〜すまないと言っていたよ。じゃ、頼むな」
………あのインターホンから聞こえていた何ともいえない変な音は“寝息”ですかい!

また高田馬場へ戻り、池袋へ行き、西武池袋線へ。また戻って西武新宿線へ。東○動画は17時に閉まるので全力疾走で駆け込みます。
それから新宿へ戻り、中央線で国分寺まで。編集部に戻るのは20時近くの予定。やれやれ。

ま、こんなことは日常茶飯事。今日もいつもと変わらない一日でした、マル。




某月某日

「キャラクター&この秋のファッション」という巻頭特集の撮影を手伝ってくれと、担当から指示。
ヴァンに満載された服を運び込み、スタジオにカン詰めになりました。
『シュ○ト』を中心に、アニメのキャラクターに似合う服をコーディネート。
写真を元に、その服を着たキャラを原画に起こしセル画にして、ファッション誌っぽい体裁にする企画です。
同時に、服のみの写真をページに掲載し、その値段やブティックを紹介します。
床に背景紙を敷き、コーディネーターの指示どおりにトップとボトム、ブラウスやシャツを組み合わせます。画面におさまるように長さを考え、スラックスなどは片足を折ったりして形をつけます。
しわをのばし、プリーツなどははっきり立体感が出るように。
これがけっこう重労働。
「そこ、糸くず出てる!」
「値札が見えてる! はずして! はずせない? もっと奥に入れて! そう!」
「そこ、モコモコしてる! 上がったら変な影が出るぞ。もっとしわをのばして!」
「それ、汚れと違うか!? 影か? おい、ちゃんと見てくれ!」
チェックチェックチェック!
5時間がかりの中腰作業で、終わった頃には身体中ガクガク。服って案外重いんです。
畳みなおして、ダンボールにつめて、ヴァンに乗せて…もう、帰っていいですか?




某月某日

いよいよ「原稿」を書くことに。もちろん、ページはまだ持たせてもらえません。あくまでお手伝いです。
「よろしくお願いします」
「う〜ん、何を教えたらいいかしら? とりあえず本誌を見ながら、これらにコメント書いてみてくれる?」
私の原稿を指導することになったのは、読者ページの担当さん。
読者からの山のような手紙を彼女が選別。それを受け取って、手紙文を字数内にまとめ、コメントを入れます。
読者のページはけっこう気をつかうページ。プロ相手ではないので、基本はヨイショの姿勢です。
「もっと短くまとめて」
「こんなコメントはちょっとねぇ」
「あまりオタクっぽいことは書かないで」
どうやら私の書くコメントは、一般読者向きではなく、オタク向きっぽいことが判明(笑)。
さっそく、本誌のファンクラブの会報担当になることに。担当モノができたのは嬉しいけれど、す、素直に喜べない。


某月某日

切羽詰まってくると「ネコの手」がほしいのはどこも一緒。
またまた「原稿」がやってきました。今度は、企画段階の新着情報を載せる2色刷りのページです。
読者ページに続いて、このページの担当もフリーの編集さん。10歳も上で、すでに映画のムック本の編集や、外国TVドラマのムック本の翻訳でも有名なライターさんでもあります。
「う〜ん、この雑誌ってどんなものかわかってるか? 読んでみたか? それでこんな原稿よく書いてくるね」
口調は丁寧ですが、中身は辛辣です。
「どこが悪いのか、教えてください」
「そんなこと、自分で考えることだろ」
400字詰め2枚の原稿に、書き直し書き直しで、ゴミ箱はまさに反故の山。
19時くらいから書きはじめて、3本ほど原稿を上げたのは朝4時半。
「もう、いいわ。入稿の最終便が来たから、とりあえずこれで入れるわ」
校閲からの入稿最終便は午前5時です。不満足だけどタイムリミットというわけです。
その後、初校、色校と工程を経て、本になった時には私の文章がどれなのか、書いた本人にもわかりませんでした。

後日譚: 入社当初の私には天敵だった大先輩。他にも彼とのエピソードは山のようにあります。
でも、いつしか共通の趣味?でよくしゃべるようになっていました。私の外国TVドラマコレクションは、実は彼の秘蔵版からダビングしてもらったものがほとんどです。
また、退職直前に私がひとりで作ったムック本には、「いい本ができたな。この雑誌のムック本らしい、ファンが喜びそうないいものができたな」と言ってくれました。背後でファンファーレが鳴った気分でした。
今、私が曲がりなりにも文章を書いているのも、彼のあの指導ともいえない指導と反目があったからだなぁと思います。




某月某日

試用期間も2ヵ月を過ぎました。
電話が忙しい時期、おつかいが忙しい時期、原稿が忙しい時期、写植屋さんへのおつかいが忙しい時期、印刷所から戻ってきた写真やイラストの整理に忙しい時期。
月刊誌の大まかな1ヵ月のスケジュールが、なんとなくわかってきました。

「◆◆の※※ですが」
「あ、お世話になっております。すみません、今出ています」
印刷会社から、写植屋さんからかかってくる電話は、すべてスケジュールを管理する“進行”担当宛てです。
しかし、進行担当は編集作業も掛け持ちなので、ほとんど編集部にいません。
新人研修として、鳴った電話はまず取っていた私が、印刷会社や写植屋からの電話を受けるしかありません。
「いつ頃入稿になりますか?」
「今月の完全版下の発注は何ページくらいで、いつの作業になりますか?」
「写真やイラストだけ、先に分解作業に入りたいんですが」
メモ、メモ、メモ。
「戻り次第、連絡させますので」
デザイン事務所や校閲会社からもかかってきます。
「今日は何ページくらい、こちらの作業ができますかね?」
すべて急ぎの返事待ち。でも彼はつかまりません。
「わからないですか。困りましたねぇ」
「あ、では今いるメンバーにだけでも聞いてみましょうか」

「○○さん、今日巻頭8ページ入りますか?」
「××さん、巻中(かんなか)ページのデザイン入れ、いつになりますか?」
「△△さん、◇◇◇のまんがのネーム、写植出しは外注ですか? いつごろ上がりますか?」

えぇ、わかってます。これは僭越ながら“進行”の仕事です。でもしょうがないじゃないですか。


某月某日

印刷会社、写植屋、デザイン事務所からの電話が“私宛”にかかってくるようになりました。
「あ、Zさんですか。スケジュール立てましたから、確認してください」
その言葉のはずみようは、我が意を得たりといわんばかりです。
(え〜と、それ私の仕事ですか?)
なんだか、いつの間にやら、編集部・外辺部公認の進行管理者になってる? もしかして?


それから数カ月後…

「○○さん! 巻頭全ページ、カンパン(完全版下の略)ですか。カンパンも○日締めですから。あと3日もないですよ! カンパンは追加料金になりますから、以後は進行気をつけてください!」
「××さん! 部分カンパンは今回何ページくらいですか? デザイン入ってるんですか? え、まだ? あそこ2色刷りですから、先に本文バラ打ちしないと間に合いませんよ! 全然間に合ってないんですよ! いつが入稿日だったと思ってはるんですか!」
「△△さん! まんがの入稿は? 色校のせ?(色校を戻すタイミングで入稿すること。これがホントのギリギリ最終)。青焼き(面付けが合っているか確認するだけのジアゾコピー紙のこと)出すんですか? だったら、その日戻しでお願いします!」

やがて「無敵の進行」の異名をとる、入社1年未満ですでに態度のでかい進行管理者はこうして誕生したのであります。




後日譚: この後、作家を紹介するページを立ち上げていくことになります。これが初めての担当ページでした。
ファンクラブ会報をすべてまかされ、ついには会員たちと“お茶会”なども開くようになりました。
『グラン○ート』のラビが好き、なんてうっかり口走ったためにスタジオ・ラ○ブ担当になり、『タカ○ル』のCDにちらっと参加したり(笑)。
『アルス○ーン戦記』『銀河○雄伝説』『アッ○フェルラント物語』の一連の田中芳樹作品、『サイバーフ○ーミュラ』、少年サンデー系のアニメ『ヤ○バ』『うし○ととら』など、編集作業もイロイロ試して楽しみました。『うし○ととら』オールナイトフェスティバルでは、各アニメ誌の担当記者がコスプレするハメになり、往生したことも、今では懐かしい思い出(かな)。

3連徹など当たり前。進行として朝5時の最終入稿まで見届けなければならないハードな仕事で忙しかったけれど、楽しかったですね。若くないとできない、これもまた真理です(笑)。





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Wrote 2 October 2001 for Counter No.100
Rewrote 10 October 2001


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