PUB STORY in OXFORD
#1

Eagle and Child

看板表  看板裏

 ここの看板を見る度に苦笑してしまう。
 鷲に連れ去られる子ども。突然に天空へ舞い上がる自分にとまどう、その表情。
 ギリシア神話にある「鷲座と水瓶座の伝説」である。
 鷲は大神ゼウス、子どもはトロイヤ王の息子ガニュメデス。
 ガニュメデスはその美しさのために、ゼウスの酒杯を満たす従者とされるべく、天空へさらわれた。
 酒壷をもつ美しい少年の姿は水瓶座に、ゼウスが遣わしたとも、自らが変身したともいわれる鷲は鷲座になった。

 まさに神話のワンシーンを描いた看板。ちなみに表と裏が違うのもご愛嬌だ。

 オックスフォードの街の中心部にあるこのパブはいつだって混んでいる。わいわいがやがやと賑やかな店内は、狭い上にいくつかのブースに分かれているので、席にあぶれたらカウンターとブースを仕切る壁の間の細い通路に立つしかない。
 低いアルコーヴに頭をぶつけそうな小部屋のブースは、4人が座っていっぱいのところや、10人くらいは座れそうなところや。テーブルの小さなロウソクの火がやわらかくゆらめいて、晩秋の寒さを逃れきて、グラス片手に身を寄せるように話し込む人々のゆるんだ顔を照らしている。

 ─One pint of Tetley's, Please!
 ─One forty-eight.

 1パイントは0.57リットル。カウンターでビールを受け取ると同時に現金で払うCash on Deliveryだ。
 8年ほど前、エールで1ポンド40〜50くらい、ギネスなどのスタウト(黒ビール)で1ポンド60前後だったと思う。記憶が定かではないけど。
 英国ではラガーは飲まない。カールスバーグやバドワイザー、クワズなどは英国以外でも飲めるから、お金がもったいない。やはり英国ではエールかスタウト。冷やさない、常温サーブのビールがいい。

 さて、このパブ、1666年以前からTavern(居酒屋、宿屋)としての歴史があるらしい。
 1940年代には、『指輪物語』の作者JRRトールキンと『ナルニア国物語』のCSルイスがよくここで話していたという。彼らの時代の気分に浸れるのか、わざわざこの"Rabbit room"でホビットやナルニアを読みふける人もいるとか。
 というわけで、CSルイスの半生を描いた映画「Shadowlands」に登場したパブでもある。

 戸口にまであふれている仕事帰りの地元の人たちや大学生たちの迫力に負けてか、この店ではめったに外国人の姿は見ない。
 バス発着所であるGloucester Green(グロセスター・グリーンじゃないよ。グロスター・グリーンと読む。英語のいやらしいところ)の周囲には、外国人でも気軽に入れるパブ、多いけど。

 待つこと20分。来た来た。
 混んだ店内でも、東洋人の女一人は目立つのだろう。戸口からまっすぐこちらにやってくる。
 息せききってくると、首をふりながら言う。

 ─Sorry. Terrible Traffic Jam! What are you drinking?
 ─Tetley's.
 ─One more?
 ─Yes. Half, please.

 ビールはたいてい1日ワン&ハーフパイント。彼は車なのでハーフパイント。時間があって酔いをさませるときはワンパイント。
 席が空けば、そのままこのパブで。
 空いてなければ、近くのKing's ArmsかTarf Tavern、あるいは車をとばして、私のお気に入りのTrout Innへ。
 会うときのコースもだいたい決まってきたなと思う。

 今日あったこと、会わなかった間にあったこと。
 私の英語の進み具合、ホストファミリーの話。自分の仕事の話、数学の勉強の進み具合。
 もっぱら彼が話し役で、私は半分わかったようなわからないような、ほとんど第六感で理解しているつもりの会話が続く。
 がやがやと賑やかだけれど、不思議と会話は邪魔されない、そんな空間。
 木のアルコーブが隠れ家の雰囲気を作るブースで、他のカップルと相席でも気にせず、話して飲んで。

 23時になれば、なぜか「螢の光」がかかってた、記憶がある。
 店を出たとたん、風がアルコールで火照った身体の熱を奪い取る。

 ─Bye for now.
 ─Bye, bye.

 彼は近くに止めた車へ。私はバスに乗るためにCarfaxの角へ。
 ほんの1時間半ほど会って話す。ビールを楽しんで別れていく。

 まるで寄っては離れるふたつの点のように思える、8年前の11月、Eagle and Childにいた私たち。

イーグル&チャイルド
こじんまりとした外観のパブ The Eagle and Child


Eagle and Child
49 St.Giles

営業時間:Mon-Fri 11:00〜23:00 Sat 11:00〜15:00、18:00〜23:00
     Sun 12:00〜15:00、19:00〜22:30
ビール銘柄:Tetley's、 Burton、Wadsworth's 6X、ABCを常備。
      2週間ごとにゲストビールが替わる。
フード:ランチタイム(Mon-Sat 12:00〜14:00 Sun 12:00〜15:00)
    ディナータイム(Mon-Thu 16:00〜18:00)
    サンドウィッチ、プルマンズ・プラッター、
    ヨークシャー・プディング、パスタ、カレーなど。

Pub Information from
"Good Pubs of Oxford 3rd Edition" Pintsize Press



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Copyright©ZATSUBUNDOU All Rights Reserved
Wrote 13 April 2002
Added Photos 8 March 2003



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