PUB STORY in OXFORD
#2
King's Arms
オックスフォードは37のCollege(カレッジ)が集まる英国最古の大学都市だ。よくいわれるOxford University(オックスフォード大学)とは、それらカレッジの集合体の名称である。 大学組織が今の形になったのは16世紀以降だが、13世紀に登場したカレッジも少なくない。Balliol College、Brasenose College、Merton(マートン) College、Exter College、Hertford College、そして1437年創立のAll Souls Collegeから、Christ Church College、Magdalen(モードリン) Collegeなど、歴史あるカレッジはすべてシティ・セントラル(市中心部)に集中している。 その中心に位置するのが、学位授与式が行なわれるSherdonian Theatre(シェルドニアン・シアター)、英国で出版される本がすべて収蔵されているBodleian Library(ボードリアン図書館)と、読書室であるRadcliffe Camera(ラドクリフ・カメラ)である。 シェルドニアン・シアターを守る神々を拝し、ボードリアン図書館のはす向かいを見ると、そのパブ、King's Armsがある。 1607年創立。店名のKingとは、時の王ジェームズ1世である。 「スコットランドの女王」メアリの息子であるジェームズ1世は、今日でも「ガイ・フォークス祭」で忘れられることのない王である。 1605年11月5日、ジェームズ1世の治世に反発したカトリック教の一団が王の暗殺を試みる。これがThe Gunpowder Plotで、計画は事前に発覚し、議事堂地下室で火薬を仕掛けていた首謀者Guido(Guy) Fawkesが逮捕された。以来、この日はBonfire Nightとも呼ばれ、ガイ・フォークスの人形が焼かれ、花火が打ち上げられる“祭りの日”である。 King's Armsは、元は馬車が止まる宿屋で、私設劇場でもあった。オックスフォードで初めて『ハムレット』が上演されたのもここだったそうだ。 今では、円形のカウンターを中心に、禁煙のファミリールームを含むいくつかの大部屋に分かれた、近在では大型のパブである。 立地上、カレッジの学生や関係者が多く、ランチタイムや17時ごろは混みに混んでいる。シェルドニアン・シアターでコンサートが開かれる宵には、スーツやドレスで準正装をした観客や出演者の姿も見られる。 木の板が張られた店内は、ポートレイトなどが掲げられ、それなりにアカデミックな雰囲気だが、喧噪に巻き込まれてしまえば、そこらのパブと変わらない。煙草の煙りに追い出された人々が、路上に置かれたベンチで飲んでいたりする。
昼12時。学校の昼休みは1時間しかないのに、パブの中に姿が見えない。このパブ独特の分かれた部屋を順に戸口から覗いていくと、メインルームの片隅から名前を呼ぶ声がする。 外光に頼った薄暗い店内で、背後から光を受けたその影は、夜に会う印象と違う。 ─Hi! ─Hi! 向いの席に座って眺めたら、白のカッターシャツ、鮮やかな黄色地に明るい青の花柄のネクタイ、紺地にピンストライプのスーツ。銀灰色に陰のように灰黒の混じった髪、沈んだ緑の瞳によく似合っている。 180センチの上背に、いつもは猫背ぎみに見える肩も上着の肩の線が合って、決まっている。 ─How nice Looking you are! Very handsome! I couldn't recognize you. ─Because I'm at work. It's just a lunchtime at the moment. 「かっこいいじゃん」と言えば、「仕事中だから」となぜかぶっきらぼうに答える彼に、「おお、照れてる」とは口に出してはいけない一言。 ─Would you like something to eat? ─Yes, please. ─And beer? ─Yeah. Half pint, please. カウンターに近づいていく後ろ姿をつい見送ってしまう。いつもはそんなことしないのに。 頬杖ついて顔は動かないのに、目が追っていく。 見慣れた人の見慣れない姿に、自然に鼓動が早まる。 そんな自分を、相変わらず変なところに弱いな、と笑う自分がいる。 足の運びに合わせて、きしる灰色の床板。 カウンターの上の「Today's Special」のメニューが書かれた黒板を指しながら、スタッフに注文する彼。 奥のマダムに注文を確認する、ちぢれた長い金髪を後ろでくくった若いスタッフ。 カウンターの中にいる若者の頭のあたりには、逆さに整理されたワイングラスの列。胸のあたりにはキラキラ光るビアハンドル。背後には逆さにされたワインやジンのボトルに、ウィスキーボトルの列。 どうやら品切れらしく首を振る若者に、手を広げながら何か言う彼。 うなずいて、注文書に何か書きつけて、奥へもっていく若者。 カウンターに半身を預けて、ちらりと私に視線を流す彼。 思わず目が合って、先に視線をはずしたのは私の方だった。 両手にビアグラス。トーストサンドとフライドポテトが山のように盛りつけられた皿を、器用に腕の肘に乗せてテーブルに戻ってくる。 ─Oh! I haven't enough time for talking to you! 「話してる暇がない」って!? いや、今日呼び出したのはそっちで、私だって学校の昼休み1時間しかなくて、かなりあせってますが。 サンドイッチを食べながら、次の言葉を待ってみる。 しかし、時間を気にするように食事に熱中している相手にお手上げ状態で、私も食べることに集中する。 どうも落ち着かない気分で、押し込むように口に入れたフライドポテトをビールで流し込んで、タイムリミット15分前。 ─Have you any plan on Christmas Day? 突然にクリスマスの予定などを尋ねられて、出る言葉は「はあ?」。 ─僕の前妻と子どもたちがクリスマス・ディナーに来るんだけど。夕方には帰るから、一緒にクリスマスを祝うのはどうかと思って。 ─私もその日は、下宿でクリスマス・パーティーがあるんだけど。 ─英国でのクリスマスって初めてだろう。そんなに遅くならないように送るから、来れないかな。 ときどきは私の英語のレベルを忘れて饒舌なくせに、こういうときはじっくりゆっくり私の顔を見ながら話す。 まぁ、いいか。たしかにクリスマス・ディナーなんてそう何回も経験できることではないし。 ─OK. Thank you for your invitation. ─It's my pleasure. 真剣な顔に、ほっとしたような、いたずらっぽい笑みが浮かんでいる。さっきまで全身から漂っていた妙な緊張感が消えている。 ああ、これが言いたかったのか。 そういえば、たまに奥さんや子どもが訪ねてきたあとは落ち込むんだと言ってたっけ。 さすがにクリスマスの夜は、落ち込んだまま過ごしたくないとみえる。 ─真意はわかってるよ。 そんな気持ちを込めて笑い返せば、しまったという表情で顔をしかめてみせる。 言葉も表情もジェスチャーも第六感も、すべてをフルに使って、お互いの真意をはかりあう。 フェンシングのように、よくしなる意思の剣を交わして。King's Armsのもと、お互いの心づかいと礼儀に敬意を払って。 冬の白い太陽に、コートの前を合わせて思わず身震いしながら、お互いの方向へ分かれていく。 12月、オックスフォードの街もクリスマス・イルミネーションに彩られる。そんな季節。
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King's Arms Corner of Park Road & Holywell St. 営業時間:Mon-Sat 10:30〜23:00 Sun 10:30〜15:00、19:00〜22:30 ビール銘柄:Young's Bitter、 Special、Oatmeal Stout、 Seasonal Ale(Winter Warmer etc.)、 Youngers No.3、Morlands Original、Wadworths 6X、 10種類のモルトウイスキーにワインリスト常備。 フード:ランチタイム(Mon-Sun 11:30〜14:30) ディナータイム(Mon-Sun 17:30〜21:00) サラダセレクション、トーストサンド、パイ、アイスクリーム などのメインメニューに、特別メニュー、サンデーメニューあり。 コーヒーバー:Mon-Sat 10:30〜17:30 サンドイッチ、スープ、ホットスナック。 Pub Information from |
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