PUB STORY in OXFORD
#4

Old Shool

私、ネコ好きなんて言ったかな。

- Happy Birthday!

の言葉とともに渡された白いボール箱。
開けて中身を取り出せば、白い薄紙に幾重にもくるまれた、ずっしり重い感触。
手のひらに乗せて薄紙をはがしていけば、現れたのは、鈍い金色のネコのオブジェ。
四肢を投げ出して横たわった姿で、頭と尻尾の先が起きている。
ちょっとすました顔の、シャムネコみたいな短毛種のネコだ。
ひっくり返せば、フェルトの下敷きにPaul Jenkinsと彫刻家の銘が入っている。

 ええ、ほんとにネコの造型は大好き。
大英博物館のメモリアルショップではエジプト彫刻のネコのレプリカ買っちゃったし、東京のギャラリーで見つけた丸石にネコの顔が描かれた作品は大切にしてるし。
パリの「ネコのグッズ専門店」(ネコをモチーフにしたモノだらけの店デス)で見つけたドレスを着たネコの人形や、ネコの絵が描かれたイースターエッグ風の置き物も宝物にしている。

 でも、そんな話したっけ?

- Thank you very much! It's so lovely!! But I wonder why you chose a cat for me?
- Because you're likable as a cat.

 そうなんだ? あなたには、私がネコみたいに思えるの。
うん。本当にネコだったらよかったのにね。そうしたら、あなたの隣の居心地のよさを、言葉よりずっとうまく伝えるのに。目を細めてグルグル喉を鳴らして。


 外光に頼った店内は、昼でも少し薄暗い。
18フィート(約5m50cm)の高さをもつ壁には、古めかしい革表紙の本がつまった本棚や、科学実験で使われるような古びたビンが置かれた吊り棚が配置され、あちらこちらに油絵がかけられている。
広い広い円形の店内は床の高低でブースが仕切られ、大人数のイス席から、ひとり用の立ち席まで、人数や好みで選べる。
奥の席では学生の団体が先生らしき人を囲んで、ビール片手になにやら議論を戦わせている。真剣な中に遊びの余裕が感じられるメンバーの顔は、すでにほの赤く染まっている。
入り口近くの立ち席には、大きなバッグを足元に置いた中年の男性。小さなテーブルに左腕を乗せて、腕時計をちらちら眺めている。
突然、厚手のアラン・セーターにジャケットをはおると、ビールをあおって出ていく。
きっと、前のバスターミナルにバスが入ったのだろう。

 Old Schoolの名のとおり、この建物は1900年から1934年まで学校だった。
その特殊で美しいフォルムが惜しまれ、目の前のグロスター・グリーン・バス・ターミナルの待ち合い所としてパブに改装された。
そう、Old Schoolはオックスフォードの玄関口にあって、旅行者がこの都市独特のアカデミックな雰囲気をまず体感できるところと言ってもいい。
また、去る人がこの街を偲ぶにもいい場所だ。

 高い天井を見上げると、古い本や薬品染みのついたガラスのビーカーの香りが際立つ気がする。それは昔、古い学校の図書室で感じた、重く沈んだ空気によく似ている。
それはひどく懐かしく、ノスタルジーを運んでくる。
さっきからにぎやかな学生の団体は、議論白熱中らしい。盛んにジェスチャーが入りはじめた。破顔している何人かを見れば、どうやら宴もたけなわ。
向こうのソファでは、若い男女が顔を寄せあって話し込んでいる。
その手前のテーブルの、白髪の頭だけが見える老夫婦はゆったりと空間を取って座り、ゆっくりグラスを傾け、そしてときどき思い出したように言葉を紡いでいる。
ドアが開いて、またひとり、大きなバックパックをかついだ青年が入ってくる。


 手にしたネコの重さをふと意識して視線を戻せば、斜め横に彼の顔。
微笑めば、けげんそうな微笑みが返ってくる。
あぁネコだったら、喉を鳴らすだけで、この居心地のよさを伝えられるのに。

- I like you, a charming cat and this atmosphere. Today is a unforgettable day. I'd like to say thank you for all.
ほら、言葉にしてしまうと陳腐になってしまう。伝わるかな、この気持ち。

- It's my pleasure.

返ってきたのはたった一言。うん、それ以上はいらない。わかってるね。通じてるね。

 2月。今日、またひとつ年を重ねた。


オールド・スクール
Tourist Information Centerは入り口入って左。
正面扉の奥がパブ Old Shool


Old Shool
Gloucester Green(ツーリスト.インフォメーションと同じ建物)

営業時間:Mon-Sat 11:00〜23:00
     Sun 12:00〜15:00、19:00〜22:30
ビール銘柄:Greene King IPA、 Abott、Rayments
      ゲストビール:Black Baron、SorcererといったGreene Kingの季節限定ビール
フード:(Mon-Sun 〜21:00)
    フードメニューはテーブルまでもってきてくれる。他のパブより値段は高め。
    つまみからメインデュッシュまで値段まわりはいろいろ。
    つまみ:コーンチップスとグァカモーレ(つぶしたアボガドにトマト、タマネギ、
    調味料を混ぜたもの)など
    軽食:クルマエビとカラマリCalamariなど
    メイン:カシューナッツ入りパエリア、ラム肉の串焼きなど
    二人用メニュー:肉まんじゅうなどの点心セットなど

その他:禁煙エリアに子ども連れ用の部屋が2つある。
    夏は野外席ができる。

Pub Information from
"Good Pubs of Oxford 3rd Edition" Pintsize Press



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Wrote 22 July 2002



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