葡萄
小咄
郷に入っては郷に、の心
─英国篇─

 空と大地の境も見えない夜空の果てから、ゆっくり現われる光の海。それは大都市ロンドンをかたどって輝く。やがて平面から立体へ光の柱が立ち上がり、光の海に沈むように、高度を下げていく飛行機。
ヒースロー空港の管制塔が見えたとき、「あぁ、今からこの国で暮らすのだ」と、初めて実感が湧いた。ロンドンが光のかいなを広げているように思えた。

 憧れの英国! 不毛の荒野でも無人島でもない、人が暮らしている土地、ましてや日本と同じような文明水準の国だから、まぁなんとか生活できるはず。
それに憧れの国ならば「あばたもえくぼ」。大抵のことはクリアできるさぁ〜。
そんなア・カルイ予感は当らずとも遠からず。些細な思いの行き違い、言葉が通じないことのストレスや勘違い、などなどあったにしても、生活面でさほどに困った記憶はない。
それでも、違うぞ、なんだか変だぞ、そんなところもあるもので。ご参考までにピックアップ!


BATH
 英国人の家に下宿していたとき、バスタブはあるのに、それが使われていないことに驚いた。オックスフォードの下宿では、湯をためるのは子どもたちが入るときだけ。私も含めて大人は、バスタブでシャワーを浴びておわり。湯をためて身体を浸したりしないのである。
 それはロンドンの下宿でも同じで、ここのバスタブはすでに洗濯物干しと化していた。たまに洗濯物がどけてあると、飼っているイヌをバスタブで洗ったってことなのだ。では、人間はというと、バスルームの片隅に、四面がくもりガラスの四角い箱のような小部屋があり、そこでシャワーを浴びる。
 冬の寒い日、冷えた足や身体を温めたいなと思っても、シャワーを浴びるしかない。日本のように、肩までお湯に浸かって、身体の芯までほっこりというのはナイのだ。ケントの下宿やオックスフォードで数日泊めてもらったお宅では、バスタブに湯がはれる状態だったが、やはりシャワーですませてしまった。あまりお風呂に時間をかける雰囲気でもなかったので。
 そうそう、日本人がランドロードの下宿にいたときは、バスタブにお湯をはって浸かるのが普通だった。やはり日本人にとっての風呂は「浸かる」ものなのだ。


ELECTRICITY
 そもそもなぜお湯を張らないかといえば、電気代・水道代が高いからなんじゃないかと当時も今も思っている。
照明はとにかく暗い。欧米人の目がより敏感に光に反応するから、日本人には暗いと感じる明かりでも十分なのだという事実は、あとになって教えられたのだが。
そもそも一般家庭に天井吊りの蛍光灯照明がない。すべて白熱電球の間接照明である。私室としてあてがわれた部屋も、明かりは机の上のスタンドひとつで、学生で宿題も多かった私は本気で視力の低下を心配したものだ。
 そのうえ、夜遅くまで明かりをつけていると、「夕べは遅くまで起きていたのね。明かりがついたままだったわ」なんてチェックが入る。「試験前だから勉強してたの」と言えば、「そうなの。明かりをつけっぱなしで寝ないように気をつけてね」。こと、電気には神経質。まぁ、電圧も230/240V、50Hzで、日本の電圧の2倍からある。けっこう電気代もかかるんだろうな。
 ちなみに、英国の一般家庭は照明も湯沸かしもクッキング・レンジも基本的に電気。オーブンなどはガスのものも。
冷房装置(エアコン)はなくて、暖房は熱湯が循環するセントラルヒーティングである。


VAT
 VAT(Value-Added Tax)は付加価値税と訳す。日本の消費税と同じく、買い物をした際に合計に17.5%('01年4月現在)が課せられる。
 財布を開くたびに「税金高いな〜」と溜息が出てしまう。しかし、食料品、子ども服、書籍にはVATはかからない。これを知った時は「へえぇ」と感心した。最低限の衣食と、教育に税金をかけないところが英国らしいと思う。

 外国人旅行者は約14.9%が免税になる。お土産物などを購入する際には、必ず店のスタッフに旅行者であることを告げ、「VAT Form(Foreign Exchange Tax Free Shopping Voucher)」をもらおう。その際、パスポートの提示を求められることもある。
店での支払いは税金込みの金額になるが、「税金を払った旨と金額」を証明してくれるのがこの書類だ、英国出国時に空港の税関で、購入品持ち出しのチェックを受け、スタンプをもらったら、その場でポストに投函。
帰国後2ヵ月くらいで、小切手か銀行口座への振り込みで、支払ったVATが還付される。ただし手数料が差し引かれているので、還付額は見込み額よりも安くなっている。(参考=『るるぶ情報版 海外34 るるぶイギリス'01〜'02』JTB)


BANK
 銀行のATMは365日24時間、引き出し(Withdraw)は手数料不要。これは日本も見習ってほしいところ。
あと、一銀行のバンク・キャッシュカードでも、例えばCirrusグループに所属している銀行なら、そのカードで他の銀行でも現金が引き出せる。
Citibankのカードで、英国四大銀行Lloyd's Bank、The Bank of Midland、Barclays Bank、National Westminster Bank(Nat-West ナットウェスト)のうち2銀行から引き出しが可能だ。現在はもっと便利になっているかもしれない。

 職場から給与として渡されるのは金額と社長のサインが入った1枚の小切手。それをまずは銀行にもっていき、窓口で自分の銀行の口座に振り込んでもらう。これで初めて自分のお金として使うことができる。
日本のように、給与がすでに口座振り込みしてあるとか、現金払いの方が、即使えるという点では便利だ。


CHOCOLATE BAR
 ロンドンの地下鉄のホームに自動販売機がある。空気が乾燥しているので、「ノドかわいてたんだ。やった!」と喜びいさんで近づいていくと……チョコレートバーの自販機なのである。「英国のチョコといえば」のCadbury(キャドベリ)製。「こんなの食べたら、かえってノドかわくや〜ん!」。
 ところが、これが英国人には大人気。ボンド・ストリート、オックスフォード・サーカス、ホルボーンなどおしゃれな街、そしてビジネス街を通る地下鉄セントラル・ラインでさえ、ビジネススーツをきっちり着こなし、リムレスの眼鏡をかけた“できるっぽいサラリーマン”が、うれしそうにキャドベリのチョコバーにかぶりついている。
日本に来た外国人が、日本のサラリーマンが列車内でマンガ誌を読んでいるのを奇異に感じているとはよく聞くが、地下鉄車中での英国人のチョコバーもぐもぐも、日本人から見るとかなりヘン。
 そんな冬のある日、あんまり底冷えがしてたまらなかったので、自販機でチョコバー(レーズン&ヘイゼルナッツ入り)を買って食べてみた。「甘い、甘い、甘い〜。ノドかわく〜」。しかし、食べてしばらくしたら、身体が暖かくなったような気がした。なるほど糖分は疲労回復や、とっさのエネルギー補給に有効なのだ。
これも英国人の生活の知恵、というところ。


TURN
ーIt's my turn. 「私の番だ」
 2人以上でパブに出かける。そのなかに英国人が混じっていたら、きっと最初の1杯は人数分を彼(彼女)が払ってくれるだろう。もちろん2杯目は別の人が人数分払う。
 英国の小説で、「おごられ屋」とか、「いつも誰かが『僕の番だ』というのを待って、それに乗じて飲んでいるヤツ」とか、「自分のグラスが空になると、近くのテーブルに寄っていっては、『おごる』の一言を待っている」とか、なんだかよくわからない描写があるなあとは思っていた。
英国のパブに来て、その意味がわかった。グループの人数分の飲み物代を、順番で一人が一括して払うという習慣が、それに乗じる「おごられ屋」を生み出していたわけだ。
 さて、そのときは順番が来なくても、次に同じようなメンバーでパブに出かけたときは、今度はあなたが払おう。「turn」は人間性を量られるハカリだと言ってもいい。
ただし女性の場合、男性が多いグループに混じったら、自分が「turn」になるとは言い出しにくい。
よく同じメンバーで行くのなら、たまに「turn」を申し出るくらいで、あとはありがたくおごっていただこう(笑)。
 カップルで飲むときは、基本的には男性が払うが、1杯目は男性、2杯目は女性が「turn」になるというのもありだ。


PUB-CRAWLING
 パブ・クロウリング、日本語でいえば“はしご酒”。英国では、パブからパブへミミズのごとく「這って」いくのだ。とはいえ、パブはどこも23時に閉まるので、へべれけになるまで酔うのは難しい、かな。ちなみにアメリカではBar-hoppingという。あちらでは酒場から酒場へ飛び跳ねていくらしい(笑)。
 英国では「昼からビール」も「昼からワイン」もOK。仕事合間の昼休みに、ビジネスマンがパブでビールを酌み交わし、談笑している光景もざらだ。
シティのブラックフライヤーズで、ロンドンの下宿のランドロードとワインの飲み会をしたのも、真っ昼間だった。英国王室も立ち入れない自治区であり、世界有数のビジネス街であるシティでこの有り様だから、おして知るべしである。
 このランドロードは、シティでLloyd's(ロイズ保険引受業者組合)の会員向けの、株式動向や年次報告書、期ごとのトピックスなどをまとめた本を出す出版会社を経営していた。
ときどき、二人でパブで痛飲した。スコットランド人特有の自立と自律をモットーにした頑固さと、世話焼きで、でもさくっとした性格が好きだった。元は軍人。アザミの花が描かれたボタンの軍服を着た姿がかっこよかったんだとランドレディが微笑んで言っていた。
私も見たかったな。



 「郷に入っては郷に」の心。たぶん、当時はいろいろ軋轢も感じたはずなのだが。今となっては、記憶から消えてしまったか、懐かしい思い出になってしまったか。
 英国人とのつき合いのポイントは、「率直に話すこと(ときには難しいけど)」「お金にクリーンであること(家賃などの払いはきっちりと)」「門限などの時間は守ること。遅れる場合は連絡すること」。
彼らに「You're polite.(礼儀正しい)」と認められれば、そのおつき合いはうまくいく。きっとね。


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Wrote 17 May 2002 for Counter No.1500
Added Information 19 May 2002


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