飾り

北イタリアの青い空を見に行こう!
『黒い兄弟』一人旅


〜クレモナ・マントヴァ〜

クレモナ路地
おじさんでいっぱいの路地
ヴァイオリン・タウン クレモナ

 Cremona(クレモナ)はヴァイオリンの街。ストラディヴァリやアマーティ一族、グァルネリなど、名だたるヴァイオリン製作者が工房を構えていた街で、今もヴァイオリンの工房があちこちにあります。なぜこの街に寄ったかといいますと、私が高校時代から頭の中で練り練りして発酵させている物語(すでに腐っているという噂も)の主人公の一人がヴァイオリニストで、架空ながらストラディヴァリの名品を所有し、自分も作れるという設定だからです。それに某ジブリの『耳をすませば』でクレモナが出てきたせいもありましょうか。
この街のストラディヴァリ博物館では、ビデオや展示でヴァイオリンの製作過程をじっくり見ることが出来ます。
 さて、この街の広場を午前11時半くらいに通りかかったら、カフェのある路地から広場まで、どこから湧いて出たんだというくらい、たくさんのおじさんが飲み物片手に談笑しているのです。さっき通りかかった時は通行人が2、3人だったはずと思いながら教会に入りました。見学を終えて12時ごろに出てきたら、今度は広場も路地も人っ子ひとりいません。まるで街から人がいなくなったみたいに。カタンと音がするので目を向けたら、ヴァイオリン工房から人が出てきて、鍵をかけ、自転車に乗って去っていきました。

 白い陽光の下、まるで白日夢を見ているような非現実的な感覚を味わいました。単に一杯やってから、昼御飯に家に帰ったんだろうな、と容易に想像はついたんですが。頭で理解できても、心はその「一瞬にして無人」の見事さにただ唖然とするばかりでした。
ヴァイオリン工房ヴァイオリンの工房
マントヴァ湖
三方を湖に囲まれた、水の街マントヴァの夕景
イザベッラ・デステとマントヴァ

 Mantova(マントヴァ)は私の憧れの地です。20年前に見た『世界の名城 イタリア ルネッサンスの城』というTV番組が、非常に心に残ったのです。そして12年前、ローマ、フィレンツェ、ヴェネチィアと傍を通りながら行けなかった街。実に長い長距離恋愛だったこの街を訪れることが、この旅の大きな目的のひとつでした。
 マントヴァといってピンと来る人は少ないのですが、シェイクスピアの劇『ロミオとジュリエット』で殺人を犯したロミオが逃げた先がマンチュア(マントヴァの英語名)といえば、あぁと思われるかもしれません。
 マントヴァは、ルネッサンス期、ゴンザーガ家が支配していました。特に有名なのが、当主フランチェスコ1世にフェラーラのエステ家から嫁いだイザベッラ・デステ。自分の書斎の入口に、モットーとして“Nec spe nec metu”「夢もなく、怖れもなく」と掲げた彼女は、なかなかの女傑でした。彼女と接触した時代人に、ミラノのスフォルツァ家のルドヴィゴ・イル・モーロ、ローマのチェーザレ・ボルジア並びにルクレツィア兄妹、レオナルド・ダ・ヴィンチ、マンテーニャらがいます。彼女については、塩野七生の『ルネッサンスの女たち』をご参照下さい。規模は違えど、私の中では、エリザベス1世、マリア・テレジア、エカテリーナ2世と同列の、女性政治家というイメージがあります。
 その彼女の足跡を見る、という夢はようやく果たされました。三方を湖に囲まれたマントヴァの水水しい風景を、ゴンザーガ城から彼女も見たんだなぁと、すっかりルネッサンスに浸った2日間。テ離宮の「巨人の間」(壁から天井に至るまで、神々に駆逐される巨人族の絵で埋めつくされた部屋。この部屋の構造上、ヒソヒソ声で話してもそれが響き渡り、巨人が苦悶の声を出しているように聞こえます)も、「馬の間」(マントヴァは馬で有名な土地でした。この部屋に入ると、馬の品評会にいるような、あるいは馬たちが壁から人間を見下ろしているような気分になります)も大満足。


 今思い返せば、この街は、長く恋いこがれてきた私に十二分のお返しをしてくれたようです。
 ちょうどマントヴァで野外映画会があったのも、ラッキーすぎる偶然でした。野外映画会は、映画『ニュー・シネマ・パラダイス』で、映写技師が窓から外の壁に映写したシーンを思い出していただければ、あんな感じです。
 ゴンザーガ城の中庭が映画館。城壁に張られたスクリーンに、城の窓から映写します。石敷の中庭に並べられたパイプ椅子に、マントヴァの老若男女が席を占めます。ジュースやジェラード売りがいます。城の通用門が切符売り場。コバルトブルーの夜空の下、湖からのそよ風になでられながら、大勢のイタリア人と一緒に見た『インディペンデンス・デイ』。内容が内容なので、日本で見ていたら多少むっとしていたかもしれませんが、このシチュエーションでは、酔いしれるしかありません。あぁ、イタリアの夜だからこその楽しみだなぁと上機嫌でホテルに帰り……閉め出しをくったのであります。
巨人の間
テ離宮の「巨人の間」。
神の雷に撃たれ、おののく巨人たち
 ホテルに門限があるのです。知ってはいましたが、何とかなると思っていました。「ご用の際には押して下さい」のベルを押して押して……でも、誰も来ません。同じく閉め出された酔っぱらったお客と一緒にガラス戸を叩いて、ようやく玄関からガラス戸を隔てて屋内へ伸びている階段(このせいでよけいに音がフロントに聞こえない)の上に人陰が見えた時には、ホッとしました。一時は野宿覚悟しましたもん。いくら夜が素敵、といっても限度があるでしょう。
夕闇のマントヴァ
宵闇に沈むマントヴァの広場。左側がゴンザーガ城
 マントヴァで泊まったホテル・アポッロは駅前にあるホテルです。ここの部屋は妙な形をしていたのですが、それはさておき。2日目にメガテンな出合いが! TVのスイッチをつけたらです。
「ロミオとアルフレドがイタリア語でしゃべってるぅ♥」。
二人の声は、日本では女性の声優があてていましたが、イタリア版は男の子があてていたのでちょっと違和感を感じました。でも絵は一緒(当たり前)。ルイニの荷馬車に乗って、ミラノへ行く道中の二人。行動予定の時間を無視し、じっっっっくり見させていただいたのは、言うまでもありません。演技は日本の声優さんの方が断然上手でしたけど。しかし『黒い兄弟』ツアーであの二人に再会するとは(それも自国?の言葉を話しているぅ)。何か因縁を感じちゃいましたね。
 滞在中には、他に『小さな妖精メモル』(こんな題だったと?)や『西部の女医者ドクター・クイン』にも出くわしました。輸入もの多いぞ、イタリア!
車内検札

 ミラノ-マントヴァ間の車窓は、ひまわりで埋めつくされます。延々と連なるひまわり畑が、途切れては現れ、また途切れては現れし、圧倒されます。スイス国境付近の表情とはまた違った、北イタリアの麦藁色のお日さまに照らされた風景が広がります。
 網膜がイエローに染まるような景色を眺めて、ゆったりくつろいでいた私に近付いてきた検札のおじさん。「あ、やばい」と思いましたね。イタリア鉄道の切符は、ちょうどボーディング前の航空券ほどの大きさなのですが、それをホーム側の駅舎の壁に取り付けてあるタイムレコーダーのようなものに挟んで、打刻しなければならないのです。最初はそんなこととはツユ知らず、押さずに乗っていたのですが、「もの知らずな外国人」と思われたのか、お咎めなしだったのです。ところがある時ガイドブックに「乗り方」の記載を見つけ、以来、タイムレコーダー?を探すようにはしていたんです。
 しかしマントヴァからの帰り、うっかりと。でも前みたいに見逃してくれるかなぁ、と期待したら、何か言ってくる。おぉイタリア語だ、何いってるんだか、わからん。で、英語で「何か、問題が?」と返しました(笑)。するとえらく居丈高に早口で怒ってくる。しばらく聞いていましたが、どうやら「なぜイタリア語もわからないのに、この国に来るんだ? ルールが守れないなら来るな」と言っているらしい(わからなくても、必殺!外国人共感(エンパシー)能力で、なんかわかるのが不思議ですね。当ってるかどうか調べるすべもないですが)。口がはさめなかったので、言うだけ言わせて、「どうすればいいの?」とボケる私。すると、急に黙々とチケットに何か書き出したんです。で、えらく長い間書いているので、これは罰金でもクラうかな、と内心ヒヤヒヤしていたわけです。
と、突然、「セニョーラ、(何か言っていたが不明)」と、チケットを私に返し、「グラッツェ」と去っていく彼。条件反射で「グラッツェ」と返しながら、このいきなりの展開についていけず、頭が???で一杯になりました。彼としては、ルール違反を注意するのは仕事で、しかし注意した後は、状況を考えて対処する、ということだったみたいです。2回目に通ったときは「チャオ」なんて微笑んでましたもの。ミラノで降りる時には「ボナ何たら(多分「いい旅を」)」。
 私が悪いんだけど、何だかからかわれたような後味が残ったのでした。

切符
これがイタリア鉄道のチケット。右端に車掌の検札の書き込みが……。



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